キリムとは

Kilim Tribal 遊牧民の絨毯

基本的には「キリム」とは、パイル(毛羽)のない絨毯で綴れ織り(平織り)の織物です。

 

イランでは「ゲ(ギ)リム」、アフガニスタンでは「ケリム」、コーカサスでは「バハラ」、シリアやレバノンでは「バサス」、ルーマニアでは「チリム」、インドやパキスタンでは「ダリー」、そしてトルコ、ポーランド、ハンガリー セルビア地方などでは「キリム」と呼ばれています。

 

これらを総称して今は一般的に「キリム」の名でなど親しまれています。

遊牧民の敷物

キリムは、もともと遊牧民のテント内に敷物として用いられたり、部屋の間仕切りの壁代わりやドアの代用品、ロバなどの動物の鞍や運搬用の袋に、あるいはイスラム寺院や家の床の敷物として利用されてきました。

 

キリムは長い間、西アジアの人々の生活にはなくてはならない生活必需品として、また生活に潤いを与える装飾品として活躍してきました。

遊牧民の貴重な財産

遊牧民の貴重な財産である、羊、山羊、らくだなどの毛を原材料として、主に彼らの女性たちの優れた技術と多大な労力、時間を掛けて織り上げられたキリムは、その家の富の象徴であり、貴重な財産のひとつでした。

 

キリムは、彼らの婚礼の際の持参金の一部として、また花嫁の家族に支払われる花嫁代の一部として大きな比重を占めていたといわれています。

 

若い娘が婚約すると、母親や祖母に教えられながら婚礼の日まで美しいキリムを何枚か織り上げ、それが愛の証として、婚礼の日に携え嫁いでいきました。

 

どのキリムにも、その家族や部族に伝授された伝統的な柄や色調があり、そこには部族に言い伝えられた新興や習慣や伝説までも織り込まれています。

キリムの素材

キリムの原料は主に西アジア一帯に多く産する羊ですが、そのほかに、山羊、らくだなどやコットンも用いられることもあります。

 

まれに絹使いもあります。

キリムの利用方法

決まりはありませんが、応接間、ダイニング、キッチン、寝室、廊下、玄関ホール、階段などの床敷物としてのほかに、部屋に間仕切り、カーテン、壁掛け、ソファのカバーアップ、ベットカバー、屋外の敷物としても・・・、工夫しだいで多種多様に楽しむことができます。

 

使い込むことで馴染んでくるのが最大の特徴です。

 

使い込んで柔らかくなったところで鞄に貼りつけたり、バックに加工したり、ぼろぼろになった破片を額装してタペストリーにと、何度でも楽しめるのがキリムです。

キリムの魅力

今はオリエントの絨毯いわゆるパイル絨毯や綴れ織りの敷物(キリム)は対等に見かけることができるが、世界が経済が成長している中でも、キリムに目を向ける人は非常に少なかった。

 

早くから西アジアのパイル絨毯が日常の生活の中に入り込んでいたヨーロッパですら、キリムが装飾、実用として、あるいは収集の対象として注目されはじめたのは、せいぜい1950~60年代頃でした。

 

それまでキリムに対する評価は決して高いものではなかった。現存するキリムの大半が遊牧民や村人達によって織られた実用品であったためだろう。精緻な文様を織りだした華麗なペルシア絨毯に比べると素朴なキリムが見劣りするのは当然かも知れない。

 

ところが、今では年代物のキリムに人気が集まり、博物館や収集家の対象となっているので、キリムの価格がパイル絨毯を凌ぐものさえあるのです。

 

なぜキリムが急に見直されてきたのでしょうか。大半のキリムは熟練した職人が織ったものでなく、遊牧民や村人達の女性が織ったものです。染織技術は、すべて母親や祖母など一族の女性達によって口伝えに受け継がれてきたものなのです。

 

下絵を使わずに、デザインは記憶に頼って表現されているので、ときには気分でモチーフを増やしたり、削ったり、ときには色を変えてみたりすることもあります。機械織りには求められない人間味あふれたキリムのおもしろさがここにあります。

 

厳しい気候と風土のなかで長い年月にわたって培われてきた彼女たちの美意識は、単純素朴ながら、大胆で強力な色調と直裁簡明なデザインとなって表れているのです。

 

その落ち着いた色合いから生まれる風情も年代物のキリム魅了でしょう。

キリムとは

キリムの種類と織り方

キリムを織るにはパイル絨毯と同様に竪織機か水平織機が使用され、前後に張った経糸に緯糸を左右に往復させて織り上げます。

 

キリムは基本的には経糸と緯糸からなる地組織を持つ平織り(綴れ織り)ですが、緯糸を織機いっぱいに通さず、部分的に繰り返す。緯糸の色を変えることによって文様が変わる部分で左右に織り返す手法が特徴です。

 

そのため色の異なる緯糸が逆の方向へ織り返すため経糸に沿ってスリットが出来、裏と表とも同じ文様ができるのが一般的特徴です。

 

その他にも地域によって、それぞれの特徴を持った織り方があります。

スリット織り

スリットは緯糸の織り返しで生じて隙間(ハッリ)のことを言い、この織り方はキリムの模様を作る一般的な織り方で、色を使い分ける部分に用いる最も簡単な手法です。

 

一色の緯糸は、その色の部分の最㟨の経糸を軸に巻き戻り、隣の色の緯糸は次の経糸で巻き戻ります。

 

この色の違う二色の堺には切れ目が出来ますが、この切れ目が長いとキリムが弱くなるため一般的にはできるだけ隙間を作らないように経糸の模様はあまり使わずに、水平や斜めの短い直線でデザインを構成します。

曲線織り

キリムは通常は緯糸は水平に経糸の間を通して織りますが、曲線織りの場合は緯糸の織りを上下にずらして織り込み、別の糸を差し込むようにします。

 

そのため、織りの中に、曲線で囲まれたところができます。

 

曲線の緯糸は、花模様の回りを囲むために使われたり、巧みな織り手によっては美しい文様を織り上げていきます。

 

イランのビジャーやセネのキリムにはよく使われています。

スマック織り(Soumak)

スマックの語源は、コーカサスの町シュマッハ Shemakha にあるといわれます。ここでは何世紀の間、素晴らしいスマックが作られています。

 

スマックは既にベーシックな緯糸が通っている地組織に新しい緯糸を巻き込んでいく手法で、非常に頑丈にでき上がります。

 

織り方は、基本的には緯糸を前後させながら、経糸2本に絡めて織り進めていきます。

 

その方向は、一方織りであったり、一段ごとに裏側へ織り返す方向と二通りの方法があります。

 

イラン、トルコと幅広い地域で織られています。

ジャジム織り

経糸に何色かの色糸を張り、緯糸一色で織る方法。

 

経糸の表面が表面に出て縞模様になります。

 

15~30cmの細幅のものを長く織り、何枚にも切って幅をつなぎ合わせて使います。

平織り(つづれ織り)

基本になる平織りは、つづれ織りとも呼ばれます。

 

経糸に緯糸を交互に通して、上からたたいて押しつけるので、緯糸が経糸を完全に覆い隠してしまう。

 

表も裏も同じ平らな布のような仕上がりになります。

均等平織り

経糸に緯糸を柔らかく入れていく平織り技法。

 

経糸と緯糸、両方の糸が表面に出てくることが、通常の上記の平織りとの大きな違いになります。

 

ジジム織りなどの地織り部分によく使われます。

ジジム織り

ジジムはトルコ語で「小さくて楽しい」という意味で、平織りで出来た地織りに別糸(緯糸)で装飾したものをいいます。

 

刺繍と考えられている向きもありますが、緯糸として最初から織り行程の中に組み入れいるものです。

 

ほとんどのものが軽量で、カーテンや家具のカバーなどとして捕まれます。

キリムとは

キリムの主要産地

キリムは遊牧民がつくりだした織物です。配色・文様・織り方・構成は、基本的にその部族の特徴が表れています。

 

そのため、キリムはその流通段階では、織り手が所属する部族名を一般に呼称として用いられ、キリムの産地はあくまでもキリムの集散地を表現しています。

 

西アジアから中央アジア一帯には、大昔から遊牧の先住部族が暮らしていました。キリムは、この広大な地域を移動しながら生活する人々の生活用具として織物です。

 

そのためキリムの産地は、近代以降に人為的に引かれた国境よりも、地域や部族によって、その違いや特徴を見ることができます。キリムの名称が、たとえばトルコにある地域や町の「マラティヤ」「コンヤ」と呼ばれたり、イランとアフガニスタンにわたって住む「トルクメン」「バルーチ」のように部族の名で呼ばれているのは、キリムの起源と歴史を物語っているからです。

 

大きくは、トルコ(アナトリア)、イラン(ペルシア)、コーカサス、アフガニスタン、中央アジア、北アフリカ(モロッコ)の六つの産地に大別できます。

 

  • トルコ(アナトリア) ヴァン、カース、シバス、エルズルム、マラティア、コンヤ、カイセリ、ベルガマ、・・・。
  • イラン(ペルシア) セネ、アフシャール、ヴェラミン、カシュガイ、バクティアリ、ローリー、カズビーン、・・・。
  • コーカサス クバ、カラバフ、シルヴァン、ダゲスタン、・・・。
  • アフガニスタン トルクメン、ウズベック、ハザラ、バルーチ、・・・。
  • 中央アジア トルクメニスタン、ウズベキスタン、・・・。
  • 北アフリカ(モロッコ) ベルベル、・・・。

キリムのデザイン

地母神(エリベリンデ)

女性の胸と腰を強調したデザインには、女神像、豊穣、多産の願いが込められています。紀元前4,000~5,000年にさかのぼるといわれるほど、長い歴史を持つ文様です。

 

羊の角

遊牧民にとって羊は財産そのもの。その羊の角は、男性の力や能力を表し、繁栄や豊穣、力を意味しています。パターンは150種類あるといわれています。

 

愛と和合

極東アジアから伝わったこのモチーフは、一般には"Ying-Yang"という名前で知られており、男性と女性の和合を表しています。

 

手、指、櫛

五本線や五つの点で構成されたこのモチーフは、五という数、たとえば手の指の数が邪悪なものに対して防護の役割を果たすという、信仰に基づいています。手のモチーフは魔力や邪悪に対するものとして用いられ、櫛のモチーフは出産や結婚のお守りとされています。

 

ミフラーブ

ミフラーブとは、イスラム寺院(モスク)にあるアーチ状のくぼみのことです。礼拝用キリムにはこの文様があり、凸模様をメッカの方向に向けて敷きます。時の経過とともに、一つの文様として確立しました。デザインは単純なアーチ状だったり、階段状であったりとさまざまです。イスラム地域のキリムには多い文様です。

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